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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

「―く、薬を」
 かすかな声が聞こえ、キョンシルは慌てて母に近寄った。
「薬ね。判った」
 頷き、部屋の片隅に置いてある棚にいざり寄る。いつも立て付けが悪くて、なかなか開かない引き出しを開けるのに更に手間取った。あまりに気が動転していて、手が思うように動かないのだ。
 それでも気力を奮い立たせていちばん上の引き出しから小さな紙包みを取り出して、震える手で母の口許に運んだ。
 手が震えているせいで、少し零してしまったが、何とか粉薬を母の口に流し込めた。
「ああ、お水を持ってこなくちゃ」
 厨房へ行こうとしたキョンシルのチマの裾が強く引っ張られた。ミヨンが掴んだのだ。

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