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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 トスは首を振ると、まだどこか上の空といった様子で室を出ていった。キョンシルの胸に不安が雨を降らせる雲のように押し寄せる。
 トスは絶対におかしい。今夜、キョンシルと烈しい口論をしたばかりなのに、そんなことすら既に忘れてしまっているかのようだ。
 もしかしたら、また、あの女の人と逢いにいったのではという疑念も兆したが、さながら幽鬼のような状態で恋人との密会も何もないだろう。
 ―とすると、トスは一体、どこに何をしにいったのか。先に寝ていろと言われたけれど、こんな状態でおちおち寝ていられやしない。

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