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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 今なら、追いかければ、まだ間に合うかもしれない。キョンシルは再び外に出た。余計なことをするなと怒られたって、構いはしない。運良く、かなり離れた前方にトスの姿を小さく捉えることができた。
 トスは存外にしっかりとした足取りで進んでいく。底なしの闇が四方にひろがる前方だけを見据え、何かにいざなわれるように歩いていった。空疎な瞳でありながら、鬼神が乗り移ったかのように鬼気迫った雰囲気が彼を取り巻いていた。
 今夜のトスはどう考えても、常の彼とは違う。
 トスは寺の山門を出て、どこかに向かってゆく。明らかにゆく先は判っているといった感じだ。キョンシルはトスの後ろ姿を見失わない程度の距離を置いて、極力気配を殺して後をつけていった。

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