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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 月夜の下で見ただけでも、清らかな美貌であった。ちょうど昨夜、漆黒の夜空を飾っていた月のようなあの女が怖ろしい夢と拘わりがあるとは思えないが、人間の内部は外見からだけでは判断し切れないものだ。もしやということもあり得る。
 だが、キョンシルはトスの側から姿を消すという決意をした。今更、彼のために何をどうするすべもない。陰ながら、トスの幸せを、あの女人と今度こそ結ばれるようにと祈るばかりだ。 
 夜半、持ち主の判らぬ墓の前で肩を震わせて泣いていたトス、悪鬼にでも追いかけられているかのように夢を見てうなされていた―。更には、真夜中の寺で密会していた美しい女。トスがこの海辺の町で過ごした歳月には、キョンシルの知らないことがあまりにも多すぎた。

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