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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第12章 第二話 【はまなすの咲く町から】 心のありか

  心のありか

 寺を出たキョンシルは、その脚で李家の屋敷に向かった。どうしてもウォンジュンには一度、逢っておかねばならなかった。これから先、どうするのかと途方に暮れもしたけれど、もうトスの側にいられないというのなら、この町にいる必要は何らない。
 元々、キョンシルの生まれ故郷は都なのだから、また都に戻るつもりだった。女ひとりの長旅は心細いといえば心細い。だが、父を早くに亡くし、母さえも失った今、キョンシルには頼る人とていないのだ。感傷や泣き言ばかりに囚われていても、誰も手を差しのべてはくれないのだから、気をしっかりと持って生きる道は自分で切り開き、自分の身はこの手で守ってゆかなければならない。いつまでも甘えは許されないのだから。

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