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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

 背後で扉の開く音が聞こえ、次いで息を呑む気配が伝わってきた。
「―」
 キョンシルは涙の滲んだ瞳で振り返った。
「トスさん」
 トスの脇をすり抜け、小柄な一人の男がミヨンに近づいた。どうやらトスが連れてきた医者らしい。
 医者は五十前後くらいで、髪にはかなり白いものが混じっている。膚には存外に皺がなく、色艶も良い。もしかしたら、見た目よりも幾分若いのだろうか。
 小柄な医者はミヨンの脈を取ったり、眼を開いてみたり、手際よく診察している。
 しばらく水を打ったような静寂が続き、やがてそれは医者自身の声で終わりを告げた。
「残念だが、既に事切れておる。もう手の尽くしようがない」

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