テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

 キョンシルの眼から大粒の涙が溢れ、頬を流れ落ちた。覚悟していたとはいえ、それでもまだ一縷の望みを抱いていたのだ。
 医者が枕元に落ちていた粉薬の残骸をめざとく見つけた。
「これは?」
 誰ともなしに問うのに、近くにいたキョンシルが弱々しい声で応えた。
「母の薬です」
「薬? 毎日、呑んでいたのかね?」
 キョンシルは医者の指摘に、ゆるゆると首を振る。
「いいえ、毎日、服用していたわけではありません。胸が痛いと言っていたときだけ、呑んでいました」
「胸が痛い? お母さんは、胸が痛むと訴えていたのかな」
「時々、そんなことを言ってました」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ