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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

「痛むのは、どの辺りだと?」
「この辺―、だったと思います」
 キョンシルが自分の胸を押さえて見せるのに、医者は軽く頷いた。
「左胸だね」
 彼は更に粉薬の入っていた紙包みを眼の前にかざし、しきりに臭いを嗅いでいる。
「つまり、発作が起きていたときだけ、これを呑んでいたと、そういうわけだ」
 彼は包み紙にほんの僅かに残っていた薬を指でぬぐい取り、口に含んだ。
「これは心ノ臓の薬だよ」
 キョンシルはハッとして医者を見た。
「まさか知らなかったとでも言うのかね」
 その言葉には、かすかに咎めるような響きが込められていた。

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