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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 鏡売りの親父は、どこまでが本気か判らないお世辞を営業用の笑顔で投げかけてくる。キョンシルは微笑んで首を振ると、急ぎ足で鏡売りの前を通り過ぎる。
 仮に鏡に興味があったとしても、こんな人通りの多い天下の往来で立ち往生していては、通行人に邪魔になるとどやされてしまう。もっとも、大方の人々は少しもお構いなしに興味をひかれた露店に群がっているが。
 キョンシルが漢(ハ)陽(ニヤン)に戻ってきたのは、つい半月前のことになる。もちろん、トスと二人で彼の故郷である海辺の町からはるばるひと月余りの長い旅をして帰ってきたのだ。

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