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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 キョンシルは思い惑うトスに、そろそろ自分自身を許してあげてと告げた。過去を消せはしないけれど、トスはもう十分すぎるほど苦しんだ。そろそろ過去は過去として、前を見つめて自分の人生を歩き始めても良いのではと思ったのだ。そして、トスもキョンシルの意を素直に受け容れたようで、都に戻る道すがらも、これまでのように彼に纏いついていた翳りのようなものがなくなっていた。
 一度にすべてを忘れるのは無理な話かもしれない。しかし、トスもこれからは追憶の中で生きるよりは、これまで彼が生きてきたよりもはるかに長い未来に想いを馳せるに違いない。そう思えることが、キョンシルには嬉しかった。

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