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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

「そ、そういえば、まだ、若さまの名前を聞いていなかったわね」
 思い切って沈黙を破ると、眼前の男は、にこやかに笑んだ。
「ソン」
「ソン? そうなの、ソンさまっていうのね」
 どうも、このソンという男、この場の空気が全く読めていないようである。憮然とするトスなど端(はな)から無視するかのように、にこにこと人の好さげな笑みを浮かべている。
「そなたは生命の恩人だ。我が名に〝さま〟など付ける必要はない」
 ソンは鷹揚に言う。キョンシルは慌てて言った。
「そう? 何も生命の恩人だなんて、そんなたいそうなことをしたわけではないけど」

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