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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 その夜半。キョンシルは、物音で目覚めた。キョンシルたちが暮らす住まいは、少し大きめの室と物置くらいしか使えないような小さな部屋とふた間しかない。もちろん、煮炊きのできる厨房もついてはいるが、こちらも猫の額ほどのものだ。
 つまり、大きな部屋が食堂にもなり、居間、寝室にもなるのだ。続きの小部屋は普段は使っていない。しかし、こんなときのように急な客人があった夜は、この小部屋が活躍してくれる。ソンと名乗る若者は、当然ながら、この小部屋に泊まることになった。
 枕元に人の気配を感じて、キョンシルはハッと上半身を起こした。傍らのトスは武芸の達人で、骨の髄までの剣士である。気づいていないはずはないのに、眠ったふりをしているのか、こちらに背を向けて布団に入ったままだ。

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