テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 自称〝流れ者の剣士〟である彼は武芸全般だけでなく、ちょっとした病気や怪我にも詳しい。やはり、方々を流浪していた時分、怪我や病気になれば一人で対処しなければならないことが多かったからだろう。
 トスの診立てによれば、ソンの右肩はかなり酷い状態ではあるけれど、骨そのものに損傷はないとのことだ。他の打ち身や捻挫は、キョンシルがきれいに洗って消毒し、薬を塗って、とりあえず素人でできるだけの処置は済ませた。
「キョンシルにもトスどのにも、何とお礼を言って良いか判らない。冗談ではなく、生命の恩人だ」
「ふふ、ソンはやっぱり、大袈裟だわ」
 笑ったキョンシルをソンが少し眩しげに見つめ、眼をまたたかせた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ