テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

 哀しみはある日、突然に

 翌日は予想どおり、雨になった。
 母の言うことは、いつも間違った試しがない。母が正しいと言えば、そのことは正しいのだし、間違っているといえば、間違っていた。仕立物も料理の腕もそんじょそこらの女には負けないし、三十を幾つか過ぎた今でも、到底、十五歳の娘を持つようには見えず若々しい。
 娘時代の母は近隣の若者たちからの熱い視線を一身に浴びていたという。酒場の女将の養女という 立場ゆえ、その華やかな美貌は余計に人眼についた。中には両班の若さまから〝側室に迎え入れたい〟と正式に請われたこともあったというが、母はすべての求婚をきれいに断った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ