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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 キョンシルはもとより、崔氏の娘だと名乗り出るつもりは毛頭なかった。母の今際(いまわ)のきわの言葉に背くのは心が痛んだけれど、父を追い出し、母との結婚をけして認めようとしなかった祖父の貌など見たくもない。
「医者代など、とうに忘れていた。今更、他人行儀なことを言うな」
 トスは整った面にかすかに笑みを滲ませた。
「少しその首飾りを見せてくれないか?」
 キョンシルは躊躇いもせず、トスに翡翠の首飾りを渡す。
 受け取ったトスは、じいっと首飾りを見つめていたかと思うと、キョンシルを真正面から見据えた。

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