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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第14章 第三話 【むせび泣く月】 意外な事実

 行く当てがないと判りきっている者を無下に追い出すこともできない。トスとのこれからを考えれば、ソンには出ていって貰うのが理想的だとは判ってはいても、やはり、キョンシルの性格が許さない。
 ソンの熱は二日で下がり、四日目からはキョンシルの口利きで町の代書屋に勤め始めた。代書屋というのは、字の書けない、或いは苦手な人に代わり、文書を代筆する仕事である。両班の子弟であれば、相応の学識を授けられているはずだし、見るからに線の細いソンに力仕事は向いているとは思えない。
 一日中、何もしないでただ飯を食しているのは気が引けるゆえ、何か仕事はないか。ソン自身に頼まれてのことではあったけれど、ソンと代書屋というのは、いかにも似合いの仕事場に思え、我ながら良い思いつきだと少し嬉しくなった。

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