テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

「どれ」
 トスが近づき、キョンシルの頬に冷たい手巾を当てた。厨房に行ったのは、水瓶の水で手ぬぐいを冷やすためだったのだ。
「冷やせば、赤みも後には残らないだろう。本当に済まなかったな」
 トスは頭をかいた。
「女と子ども―自分よりか弱い者に手を上げるとは、男としてあるまじき行為だと常に自分を戒めていたのだが」
 そこで、キョンシルが初めて見る人懐っこい笑顔を見せた。先刻の怒った顔、たった今のまるで少年のような笑顔、いつも静まり返った湖のように己れの感情を表に出さないトスがこれだけ様々な表情を見せることに、キョンシルは烈しく動揺していた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ