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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第14章 第三話 【むせび泣く月】 意外な事実

 ひとしきり走った後、やっとソンが立ち止まった。荒い息を吐きながら、背後を確認するように振り返っている。
「ソン、何があったというの?」
 キョンシルもまた息を弾ませながら訊ねると、ソンは済まなさそうに言った。
「ごめん、キョンシルのことを考えずに、急に走り出したりして」
「まるで何かに追いかけられているかのような感じだったけど」
 まさに、言葉どおりだった。先刻のソンが見せた狼狽(うろた)えぶりは猟犬に追われる獲物が死に物狂いで逃げるような鬼気迫る感があった。
「私のことなら良いの、でも、ソンの様子が普通じゃなかったから」

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