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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第15章 王宮という名の伏魔殿

「まさか、キョンシル」
 先刻からの言いしれぬ胸騒ぎの理由、それがあの男、ソンにあるとしたら? もしや、キョンシルの身に今、何か起こっているのではないか。
 居ても立ってもいられず、トスは大股でチョ家の広大な庭園を駆けた。
 だが―。トスの嫌な予感はまさに、決定的な事実となって彼を見舞うことになる。
 その日、キョンシルは夕刻どころか、夜半になっても、家に帰ってこなかった。むろんというべきか、偶然といえば良いのか、あの男、ソンの姿も同時に消えていた。憶測としては、キョンシルとソンが手に手を取り合って家を出ていったと考えるのが妥当かもしれないが、何故か、トスはそれだけは断じてあり得ないと断言できた。

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