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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第15章 王宮という名の伏魔殿

 先頭の尚宮が年配の内官に軽く頷くと、内官は畏まって声を張り上げた。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)、宋淑媛(ソンスクウォン)が参りましてございます」
 宋淑媛―、馴染みのない呼ばれ方に戸惑いながらも、どうやら、それが自分のことらしいとキョンシルは見当をつけた。扉の両脇に控えている女官がそれぞれ扉を引く。
「さあ、お行きなされませ」
 尚宮が威圧的に言い、キョンシルはそれに気圧されたように室に脚を踏み入れた。同時にまた扉が音もなく背後で閉まり、キョンシルは狼狽えた。
「あの―」
 まだ外にいるはずの尚宮に呼びかけてみたけれど、しんと静まり返った向こうからは何の反応はない。

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