テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 ソンが冒険を愉しむ子どものように無邪気な表情で言う。もっとも、二人きりといっても、厳密にいえば、二人だけではない。王の行動には常に複数の内官や尚宮、女官が付き従うのがならいだ。むろん、大切な身の王を守る護衛の役目を担っているのだ。
 とはいえ、年若い王と愛妃の蜜月を極力邪魔しないように少し離れた場所で静かに控えている。これくらいの距離があれば、話し声も届きはしないだろう。生まれたときから王子として育ち、幼くして国王となったソンには、これでも〝二人きり〟といえるのだ。
 しかし、キョンシルは市井で生まれ育った根っからの庶民だ。幾ら声は聞こえないとはいえ、さほど離れていない場所に大勢のお付きがいては、到底〝二人きり〟とは思えない。そんなところも、やはり、ソンと自分の住む世界が違うのだと彼女に思い知らせることとなった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ