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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

「ホン内官のような人がソンの側にいてくれて良かった」
 これは本心からの言葉だった。ホン内官への恨みつらみはともかく、ソンにとっては彼はこの上なく必要な人だともう十分判っている。
「子どもの頃、私はいつも今宵のように空を見上げていた。空を見ていると、不思議に泣けてきたよ。だが、私には今でも判らない。夜、月を見て泣いていた時、幼い私自身が泣いていたのか、それとも月が肉親の縁(えにし)に薄い孤独な私を憐れんで泣いていたのか」
 ソンはこの下りを語りながら、前の虚空をじっと見つめている。無感情な口ぶりは他人の人生を語っているかのようだ。だが、前で緩く組み合わされた両手には、きりきりと力が込められていた。

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