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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

「この指輪は私の亡くなった母淑嬪愼(シン)氏の形見だ。生涯を共に歩きたいと心から思う女人が現れた時、渡そうと思っていた」
 ソンが幼い頃からずっと飽くことなく求めてきたもの―、それは紛うことなく愛情であった。本来であれば、あり溢れるほどの愛情を注がれて育つはずの幼子は広大な宮殿でただ一人、常に孤独であったのだ。周囲にかしづく臣下や女官は数え切れないほどいても、誰も彼が心底から求めて止まぬものを与えてはくれなかった。
 そして、彼は今、キョンシルの心、愛情を求めている。だが、キョンシルの心は既に決まっていた。彼女が愛しているのはソンではなく、トスなのだ。

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