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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 キョンシルは思わず微笑んだ。不思議なことに、自然界に生きるものは、人の心を和ませてくれる力を持っているらしい。宮殿の庭の片隅に花開く撫子しかり、狭い鳥籠に閉じ込められても、美しい声で啼く小鳥しかり。
 ソンの幼時の悲惨な想い出を聞いてから、また何も口に出せないままに数日が過ぎた。ソンとは相変わらず寝所を共にしているけれど、二人の間に取り立てて変わったことはない。ただ、あれから、妙に気まずくなってしまったことは確かだ。
 表面は何も変わらないように見えるが、ソンは始終、神経を逆立てているようになった。かと思えば、見えない影に怯える子どものようにびくびくとしている。それは、キョンシルがいつ別離を口にするかという恐れからくるものであったのだが、流石に神ならぬ身のキョンシルには理解できないことだった。

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