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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 もう、いつものソンに戻っている。十八歳らしい張りのある膚と男性にしてはやや大きな黒い瞳は曇りなく澄んでいる。
「私の顔に何かついているのか?」
「いいえ」
 キョンシルは狼狽えながら否定した。
 ソンがおかしげに言う。
「どうも私の顔に見惚れていたというわけでもなさそうだ」
 キョンシルは口ごもり、うつむいた。まさか、あなたの顔が六十のお爺さんに見えたのだと当の張本人に言えるわけがない。
「ソン、疲れているのではないの?」
 それがキョンシルの考え出した精一杯の科白だった。
「いや、特に疲れているという自覚はないけど」

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