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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 キョンシルは鮮やかな身のこなしで半身を起こすと、傍らの小卓から湯飲みを取った。
「馬鹿!」
 小さな湯飲みがソンめがけて飛び、王衣に当たって転がった。石榴茶が周囲に飛び散り、ソンの龍袍に薄赤い滲みを作る。
「ソン、これ以上、私を失望させないで」
「キョンシル―」
 ソンが茫然とキョンシルを見つめる。瞠った双眸からは、先刻までの切迫した光は消え去っていた。
 キョンシルは涙ながらに言った。
「あなたがこれまで生きてきた王としての人生は確かに茨の道だったかもしれない。でも、あなたにはホン内官のように、心からあなたのことを思ってくれている人もいる。孤独だったというけれど、あなたはけして一人ではなかったわ」

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