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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 時には母に甘えるように臨尚宮に泣き言を言ったこともあった。その度に、厳しくも優しく励ましてくれた臨尚宮であった。
 臨尚宮の背後には白髪の背の高いホン内官の姿も見える。ホン内官は何も言わず黙礼したにすぎなかったが、ここまで見送ってくれたことそのものが、この王への忠義一途で無口な老人のせめてもの心の表し方なのだと判る。
 宮殿を取り囲む門の扉が今、音を立てて閉まる。
 キョンシルはその場に佇み、宮殿に向かって拝礼を行った。この時間、ソンは大殿の寝所で眠っているはずだ。宮殿で過ごす最後の夜、ソンはキョンシルを召すことも室を訪れることもしなかった。それがソンなりのけじめの表し方なのだ。 

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