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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 少し歩いたところで、キョンシルは眼を疑った。前方から走ってくるあの人影は―。
「トスおじさん!」
 キョンシルは叫ぶよりも先に走り出していた。
 ひろげたトスの腕の中に飛び込んだ。
「キョンシル! 無事で良かった」
 トスがキョンシルをこれでもかといわんばかりの力で抱きしめる。
「トスおじさん、苦しい」
「今はこのままでいさせてくれ」
 いつもなら笑ってすぐに手を放してくれるのに、トスはなかなか言うことをきいてくれなかった。キョンシルの黒髪に顎を埋め、声もなく立ち尽くしている。

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