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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 今夜もトスは月琴楼の二階の一室で夜通し、酒を飲んでいた。さして広くない室内には派手な色柄の夜具が一式、その傍らでトスは手酌で酒を浴びている。
 トスのすぐ側には、明らかに妓生(キーセン)と知れる若い女が慎ましく控えていた。年の頃は十九くらい、キョンシルのような目立つ美貌ではないが、ひっそりと道端に開く野花のような風情のある美しい娘だ。
 女はトスを気遣わしげに眺めている。
「旦那(ナー)さま(リ)、幾ら何でもご酒が過ぎますよ。良い加減でそろそろお止めてになっては?」
 しかし、トスは女の言葉には耳も貸そうとしない。

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