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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

「悪かった」
 トスはもう一度言い、深い息をついた。
「どなたか、お好きな方がいらっしゃるのですね」
 女の勘は鋭い。殊にこのような商売をして、日々、あまたの客と偽りの恋を囁き交わしていれば尚更、人の心の機微には聡くもなるだろう。
 女の指摘に、トスは曖昧な笑顔で応えるにとどめた。
「これだけ苦しまれているのに、何故、その方に本当のお気持ちを打ち明けられないのですか?」
「本当の気持ち?」
 問い返せば、女はすぐさま頷いた。

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