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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 色町を貫く目抜き通りには、人気は殆ど見当たらなかった。たまにトス同様、馴染みの妓生に見送られ、妓楼から出てくる客がいる程度だ。ふと視線を上げると、東の空の端がほの白く染まり始めている。
 今日もまた朝帰りになってしまった。とはいえ、トスが色町に脚を踏み入れるのは昨夜が初めてのことである。誓って言うが、それまでは町外れの小さな酒場に通っていた。しかも、斜向かいに住む若い職人と一緒だ。
 その酒場は昔、妓生だったという年増の女将が一人でやっているこぢんまりとした見世で、特に若い女がいるわけでもない。落ち着いて飲める見世ということで、トスは気に入っていた。

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