テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 トスは話しかける機会すら与えてくれない。どうも、このところの彼は意識的にキョンシルを避けているようにも思えた。
 このままでは自分たちは本当に駄目になる。取り返しのつかないことになる前に、何とか関係を少しでも修復したいと考えているのは自分の方だけなのかもしれない。
 もつれた糸は二度と解くことはできないのか?
 考えれば考えるほど、キョンシルは悲観的な事態しか予測できず、暗澹としてしまう。
 キョンシルは緩慢な動作で立ち上がった。トスが帰ってくるまでに、せめて朝食を用意しておこうと思ったのだ。朝は大抵、雑炊と野菜の煮たものと簡単に済ませると相場が決まっている。晩は鶏肉でも奮発して買おうかと思案を巡らせていたその時、再び入り口の扉が開いた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ