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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 トスは家に入るなり、床に転がった。片手を肘枕にして、だらしなく寝そべっている。
 一瞬、近づきがたい雰囲気に気圧されそうになったものの、キョンシルは勇気をかき集めて声をかけた。
「トスおじさん」
 短い沈黙に、早くも心が挫けそうになる。
 トスはキョンシルには背を向けた格好で応えた。
「何だ」
 返事があったことに少し安堵しながら、キョンシルは続けた。
「朝ご飯の用意をするから、ちょっとだけ待っててね」
 また沈黙。キョンシルが辛抱強く次の言葉を待っていると、やがて、トスが呟く。
「要らない」

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