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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

「でも、何か食べなきゃ」
 身体に良くないと言いかけ、キョンシルはトスから漂ってくる匂いに気づいた。安っぽい脂粉と酒が入り混じったような饐えた匂いが鼻につく。
 いつもなら酒の匂いだけを纏いつかせて帰ってくるのに、今朝は違った。そして、この違いが理解できないほど、キョンシルも世間知らずではない。
 トスは酒場ではない、どこか別の場所に行ったのだ。だが、今ここで、その話を持ち出しても、かえって逆効果なだけだろうと判断できる程度の分別もある。
「さっき、ウンスクさんが来たわ」
 それとはなしに言っても、トスからは何の反応もない。

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