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変人を好きになりました

第2章 天文学者

 私たちは一緒に歩くことになった。


 空良さんを家まで案内すると、好奇心いっぱいの瞳をきょろきょろ動かしながら一階の私の部屋を見回している。

 私の部屋と言っても二階に出入りする際に通る場所なので、応接間のような場所だ。そこにキッチンがついている。


「素敵なお家ですね」
 空良さんが感心したように呟いた。
「ありがとうございます。でも、空良さんはもっとすごい所に住んでいらっしゃるじゃないんですか?」
 由佳の言葉が蘇った。豪邸……。
「えー。そんなことないですよ。俺なんて、無機質なマンションです。こういう所に憧れます」
 きっと高層マンションの最上階のことだろう。
「そうですか? あ、ちゃっちゃと作っちゃいますんで、そこら辺でくつろいでてください」

「はーい」
 可愛らしい返事。黒滝さんと大違いだ。


 キッチンに立つと、大根を大きめの輪切りにして内臓を取り出して切ったイカと一緒に鍋で煮込む。
 小松菜と油揚げの味噌汁と、ほうれん草の白和えも作った。


「すごいなあ。良いお嫁さんになりますね」

 真後ろにいつの間にか空良さんがいて、鍋をかき混ぜる私の手を凝視していた。
「びっくりするじゃないですか」
「ごめんごめん。でも、あんまり良い匂いがするから」
 そんなこと言われたら怒れないだろう。

「あっ。古都さん、睫になんかついてる」
「え?」

 取ろうとしても、両手がふさがっていて取れない。
「一瞬、目瞑って?」
 空良さんがふわりと微笑んだ。

 私は言われるままに目を瞑った。




 あれ?
 空良さんの手が睫に伸びてこない。
 目を開けようとすると息がかかるほど耳元の近くて空良さんのさっきまでとは違う色っぽい声がした。
「やばい、可愛すぎるよ」

「人間が他の霊長類と違う所は何か分かるか?」


 私は躊躇なく目を開けた。
 すると、私を今にも抱きしめそうな空良さんとその後ろに無表情の黒滝さんが立っていた。
「わっ」
 近すぎる男の人の体に驚いて思わず空良さんの胸を押してしまっていた。
「古都さんが可愛いから……つい。ごめんね」
 空良さんは気を悪くした風でもなく、少したじろいだように見えた。

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