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変人を好きになりました

第3章 入居者

「久しぶりだね、柊一。俺には人間が持つ特権とも言える理性がない、とでもいいたいのかな?」


 初めて会うはずなのに空良さんは黒滝さんの名前を知っている?

「その通り。君は猿だな。まあ、僕にはどうでもいい話だ」
 黒滝さんがどういう意味でどうでもいいと言ったのかはよく分からなかったが、胸がずきんと音を立てて痛んだ。
「もしかして柊一が古都さんの言ってた下宿人?」
 空良さんが目を細めた。

「え、ええ。お知り合いなんですか?」
「ちょっとね」
 空良さんはそう言って黒滝さんに怪しく微笑みかけた。

 黒滝さんは無言で空良さんと私のほうへ近づくと、空良さんの体を観察するように彼の周りをぐるりと一周した。
 自分よりも10センチほど身長の高い科学者に見下ろされるように観察されている間空良さんは嫌な顔ひとつせずに可愛い笑顔のまま空中を眺めていた。
「どうぞ」
 空良さんが笑顔で両手を広げる。
 どうやら黒滝さんの推理癖を知っているようだ。

「最近は忙しくて食事をあまりとっていない。フランス人の女性から貰った香水は気に入らなかったみたいだ。今取り組んでいる論文はもうほとんど完成しているが、自信がいまいちない」

 鼻を掻きながらすらりと淡々に述べられた言葉に空良さんは笑った。
「惜しいな。女性じゃなくて男性だ。正確にはゲイ」
「そうか。それは残念だ」
 さほど残念になど思っていない様子でひらひら手を降るとダイニングテーブルについた。

「でも、肝心なことを推理してないみたいだね」
「どうしてここに来たか?」
 空良さんが頷く。

「古都さんの図書館で会って、君が彼女を帰り道で待ち伏せでもしてたんだろ。いま君は本を持ってないし、シャワーも浴びて香水までつけてきたところを見るとなにか期待もしてたみたいだ」



 期待って‥‥‥。


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