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変人を好きになりました

第15章 知り合いと恋人

 意外なことにクロタキさんは笑みを浮かべた。本当に優しい笑顔。綺麗な顔立ちの人は微笑むだけで周りの空気を一瞬で色を変えてしまうなんて、とんでもなく罪作りな人だなと思った。

 ……あれ。この笑顔どこかで見た気がする。



「諦められなくて、アメリカにいる間に彼女を捜した。少し犯罪まがいのこともしたかもしれないが」
 今度は照れたように頬を掻いた。

「羨ましい」

「え?」

 あっと思った頃には遅かった。思ったことを口にしてしまっていた。普段はこんなことなかなかないのに……あまりに羨ましかったから。


「その女の子が羨ましいなって。クロタキさんにそこまでさせちゃうなんて。すごく素敵な子なんでしょうね」

 不意打ちをくらったように切れ目がちの涼しい瞳を大きく見開いて、息を止めるのが分かった。私ははあと息を吐き出して下唇を前歯で噛んだ。

 クロタキさんはドーナツが入っていた箱を私のベッドに備え付けられたテーブルに置いてそのままその手を私に伸ばした。テーブルの上でドーナツの欠片を掴んでいた私の手に触れようとしてためらったかのようにぴたりと動きが止まる。
 私は不思議な彼の行動に首を傾げた。

「そうだな。すごく……魅力的だ」

 まるで私をその女の子に見立てているように告白された言葉に私はドキリとした。

 馬鹿みたい。私に言ってるわけじゃないのに。クロタキさんは手を引っ込めて続けた。


「彼女に再会したんだ」
「わあ。すごい、ドラマみたいですね。それでそれで?」
 すっかり興奮してしまった私は先を急かす。クロタキさんも悪い気はしていないようで語る体勢に入るように首元のボタンをひとつ外した。


「僕が大学院を出て日本に戻ってしばらくした時、ちょうど彼女を見かけた。それまでも僕は勝手に彼女の進学先や住んでいる場所も調べていたけど、実際に彼女を見るのは久しぶりですごく驚いた」

「ちょっと待ってください」
 私は手をぶんぶん振ってクロタキさんを止めた。

「クロタキさんって大学院まで出てらっしゃるんですか?」
「ああ。研究所で働く多くの研究員は大学院を出ている」

 私と歳がさほど変わらないように見えるのに、大学院まで出ているなんて。

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