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変人を好きになりました

第15章 知り合いと恋人

「何を専門に勉強されてたんですか?」
「僕のコンセントレイションは……ああ、専攻科目は科学物理だ」

 コンセントレイションって。concentrationはアメリカにある超有名校だけが使うmajorと同じ『専攻』を意味する単語だ。他の大学は専攻のことをmajorと言うのに対し、その大学、ハーバードだけはconcentrationと言う。

「もしかして、クロタキさんってハーバード大学に?」

 クロタキさんはなんともないような顔で頷いた。本当に私はこんなすごい人とどうやって知り合ったのだろう。


「とにかく、大学と大学院を卒業して彼女に日本で再会した」
 出身校の話を広げるつもりはないらしく、先を話すクロタキさんに私はうんうんと頷いて見せる。

「でも、彼女は僕のことを全く覚えていなかった」
「ええっ」
 こんな人のことを忘れるなんてありえない。見たこともない少女に対して怒りさえ湧いてきた。

「無理もない。彼女が中学生の頃に少し一緒に道を歩いたことしかなかったんだ」


 中学生? 道を歩いた?
 それってすごく……。


 混乱する頭で考えてみる。私が中学二年生の頃に会ったあの初恋の少年は高校生くらいだった。もしあの少年が目の前にいる男性だとすると、彼はあの後に大学を出て、大学院を卒業し、日本の研究所で働き……賞を受賞する。22歳で大学卒業、26年で大学院卒業。看護師さんたちの噂を思い出してみる。『すごいわよね。研究所に入って2年であんな有名な賞を取るなんて。でも、受賞してから2年間表に出てこなかったわよね』
 と、いうことは研究員になってから4年。計算すると30歳……。

 いやいやいや。どう見たってクロタキさんは20代だ。


 恐る恐る口を開く。
「あの。クロタキさんはいまおいくつなんですか?」


 話の流れをぶっちぎった質問に首を傾げながらも無表情で「26だ」と答えたクロタキさんに私は心底がっかりしてしまっていた。

 あの時の彼がクロタキさんだったらどんなに素敵だろうと考えた自分が恥ずかしい。もう、忘れよう。

 忘れよう。

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