テキストサイズ

変人を好きになりました

第16章 虹の匂い

 そして、俺のその行動が古都を傷つける結果を生んでしまった。右目の視力をほとんど失い、記憶もなくした。

 あの女に対して殺意が湧いた。掴みかかって殴ろうとするのを周りに止められていなかったらあの式場であの女がどうなっていたか分からない。でも、あいつは違った。それが俺との差、古都があいつに惹かれる理由かもしれない。柊一は怒りをぶつけるより先に古都だけを見ていた。古都を真っ先に介抱した。俺は自分がとことん情けなくなった。


 でも、古都の記憶がなくなったのは天が贈った最後のチャンスなのかもしれない。こんなこと考える俺はやっぱりどこまでも最低な男だ。分かってるのに、やっぱりどこか喜んでしまう自分がいる。



「何故」

 非難するような鋭い声で我に返った。
 柊一がもの凄い形相で俺を睨みつけていた。そろそろ雨が降るのだろう。空気が重くなるのを肌で感じた。植物が発生させる油、ペトリコールが空気中の鉄分と繋がって独特の匂いを発する。

「何故って、古都が好きだからに決まってるだろ。俺が幸せにしたい」
「古都さんの気持ちを考えてもそんなことを言えるのか」
 被せるようにして早口に言われて俺は息を止めた。
「古都さんが今どれだけ混乱しているのか分かってるのか? それなのに、恋人だったお前のことを気遣わして何も感じないのか」
 柊一の口からそんな感情がどうとかいう内容の発言が出たことに改めて驚いて、古都のすごさを実感する。

「古都は嫌がってる様子じゃないし、こういう時だからこそ俺が傍にいて支えたいんだ」
 そう言いながら目の前にいる男は果たして今まで本当に好きになった相手と付き合ったことがあるのだろうかと考えた。俺の知る限りではない。

「空良、何を考えている。お前はあの女からデータを奪ってくれた。それはどういう意味だったんだ?」
 柊一の切れ長の目が鈍く光って俺をじっと見つめている。
「誰だって自分の彼女の裸の写真なんてバラまいてほしくないだろ」

 あの女、どんな手を使ったか知らないが古都がシャワーを浴びている所を鮮明にカメラに焼き付けていた。それを古都の働く図書館や家の周りだけでなくネットでも古都の連絡先付きでばらまこうとしていたらしい。どこまでも腐ってやがる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ