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変人を好きになりました

第17章 探偵と科学者

 父が急に他界して、男手ひとつで育ててくれた最後の家族が亡くなった悲しみはすぐには襲ってこなかった。たったひとりの家族が急に死んだなんて信じられるわけがない。だって一緒に悲しんで泣いてくれる家族が一人もいないのだから。


 父が残した古い屋敷のような貸し部屋を私が管理しなくてはいけなくなった時、父のいないことに気が付いた。こんなことも、あんなことも父は一人でやっていたのだと思い知った。

 それまで私は何も知らずに父の外で働いた給料とその部屋の家賃で学校に通わせてもらっていたのだ。


 父が残した家は母の実家で、しかもそこそこの名家だったらしいその家を父はすごく大事にしていた。確かに古いのに西洋風な造りは100年ほど前に財をなした人が建てたのだろうと分かる。ただ、どんなにお金を持っても成功をしても名家でも生きていないと財産の価値はなくなる。今のその家は広いのに私ひとりしかいない。部屋を借りてくれている住人の人はいつだって出ていける。


 でも、私は違うんだ。この家を守っていなくてはいけない。守ることのできるのは私だけなんだと思えば思うほど、どんどんそれが重荷になっていった。


 そこでぷつりと記憶は切れていて、もやがかかったように先のことを思い出せない。

 記憶を取り戻すということは父の死の悲しみを、孤独も体に取り込んでしまうことになるのだと思う。そんなのは……。



「思い出したくないという気持ちが少なからずあるのかもしれない。それなら、思い出さなくてもいいと……思う」
 クロタキさんが低い声を出した。私はその言葉に黙って頷いた。
 思い沈黙が病室に流れる。



「おっ、さすがBBCだね。シャーロックホームズのドラマにすっごい力入ってる」
 空良くんが沈黙に耐えられなくなったようにテレビの電源を入れて、そこに映し出された男性二人組に喜びの声を上げた。空良くんはホームズが好きなのだろうか。

 確かに日本のドラマとは違う雰囲気があるドラマ。ドラマだと言われなければ映画だと思ってしまう。

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