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変人を好きになりました

第17章 探偵と科学者

 主人公らしい男性は本当に真っ白な肌をしていて神経質そうな面持ちとうねった髪型をしていた。私のイメージのホームズじゃないなと小さく落胆する。

「否定はできないな」
 クロタキさんが呟いた。その目は顕微鏡を覗き込む主人公に向けられている。

「本物の研究者さんがそう言うんだったら相当本格的なんですね」


 クロタキさんは細長い指をくるくる回す。どうやらそれは癖のようで、両手を重ねて両方の人差し指がぶつからないようにくるくると回している。

 ホームズは両手を合わすようにして指先だけをくっつける癖があると思いだして、少し違うもののクロタキさんとかぶって見えた。そういえば、クロタキさんの雰囲気はシャーロック・ホームズにぴったりかもしれない。
 私と空良くんとクロタキさんは時折口ぐちに感想を述べながらドラマを見ていた。




「身長は165センチ前後、体重は60キロ以上で筋肉質の男。特に内側ふくらはぎの筋肉がしっかりついていて最近、新しい靴を買ったがあまりサイズがあっていなくてくるぶしあたりに靴擦れができているはずだ」

「えっ」

「はあ。柊一、主人公より先にそんなこと言われたら面白くなくなるよ」


 クロタキさんが言った言葉を数秒遅れでドラマの中のホームズが繰り返す。まるでクロタキさんの真似をしているくらい同じことを。

「クロタキさん、このドラマ見たことあるんですか?」
 驚いてそう聞くとクロタキさんは首を横に振った。

「まさか。僕はドラマを視聴するなんて非生産的な行動は好まない」
「じゃあ、どうして今のセリフを先読みできたんですか?」
 エスパーですか? と聞きかけてやめた。エスパーってなんだかすごく古い響きだ。

「セリフ? 僕はただあの足跡から分かることを述べただけだ」
「はいはい。そんなに頭が良いのに、そんな種明かしされたら見てるこっちの楽しみが減るってことが分からないのはどうしてかな」
 空良くんは嫌味たっぷりの言葉と一緒にクロタキさんのほうにくるっとした可愛らしい茶色の瞳で睨んだ。私は思わず小さく笑いをこぼしてしまった。


 それにしても一瞬画面に映った足跡だけでそんなことまでわかるなんてクロタキさんは本当に天才らしい。

 

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