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変人を好きになりました

第17章 探偵と科学者

「……悪い」

 クロタキさんは気まずそうに視線を下に泳がせて小さく謝罪の言葉を口にした。いつも自信たっぷりのクロタキさんとは思えないその様子を見て、私はその落ち込む姿を前にも見たような気がした。デジャヴだろうか。


「らしくないな。雪でも降りそうだ」

 窓の外はどんよりと曇ってはいるものの雪なんて振りそうにない。だってもう6月だっていうのに、雪なんて……。
「降るか」
 クロタキさんは冷たい声で返す。その顔はいつもの涼しいものだ。

「あれ。そんな普通に返されてもなあ」

 空良くんは困ったように頭をかいた。茶色の髪の毛
 その時、空良くんのポケットから機械音がした。クロタキさんは肩をすくめてみせる。ここをどこだと思っている、病院だぞ。と無言で言っているのが聞こえるようだ。

 空良くんは光る画面を見つめて「ちょっと電話してくる」と言うと早足に病室を出て行った。
 病室に残された私とクロタキさんはつけっぱなしのテレビの中で走り回る探偵を黙って見ていた。


「クロタキさん」
 私が先に沈黙を破る。ずっと聞きたかったことがあったのだ。
「なんだ」

 私の意を決したような声に驚きと期待を込めた瞳で見つめられる。
 残念ながら何か思い出したわけではない。心の中でクロタキさんに謝った。


「毎日、私に差し入れしてくれるあの苦いお茶は何なんですか?」
「気が付いていたのか」

「はい。どうして普通のお茶といれかえたりしてるんですか? それに、味が違いすぎて気づかないほうが変だと思いますよ」


 イギリスには日本でなじみのあるお茶が一般的に飲まれているわけではない。イギリスの紅茶が日本の麦茶や緑茶、ウーロン茶のようなものだからだ。
 麦茶の香ばしい香りが大好きな私にとって紅茶と水、炭酸飲料しかないのがイギリスの欠点だった。だから、多少値段がしたって毎日麦茶を冷蔵庫に入れるようにしている。

 でも、ここ最近は冷蔵庫に入れて置いた美味しい麦茶の味が異常に苦くまずくなっているのだった。
 それに、私がトイレに行ったり、病院の検査に行ったりしてクロタキさんだけが病室に残った後にその苦いお茶が登場するのだった。犯人は明確だ。

「あれはなんなんですか?」

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