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変人を好きになりました

第17章 探偵と科学者

「もう少し飲みやすくなるようにする。約束だ。だから、古都さんも毎日飲むと約束してくれないか?」

 私は小さく頷くのにいっぱいいっぱいで、クロタキさんにつながれた手に目を落とした。
 このまま時間が止まってしまえばいいのに、なんて考えてしまう。


 だめ。


 クロタキさんにはとっても好きな人がいるんだ。私なんかが割って入れるわけない。
 クロタキさんは私を女性として見ているんじゃない。被害者として自分の責任をどうにかして背負おうとしているだけなんだ。クロタキさんのその生真面目さを好意と勘違いするなんて恥ずかしくって何も言えない。


 私にだって空良くんという勿体ないくらい良い恋人がいるっていうのに、どうして気持ちを持っていかれてしまうの?
 クロタキさんの言動が私をおかしくしていく。


「古都さん、日本に戻らないか?」
 ふいにクロタキさんが口を開いた。思いつめたようなその顔は私をまっすぐに射抜く。

「日本……」
 本音を言えば、帰りたくない。
 あの国には家族……とはいっても父と祖母くらいだけれども大切な人たちと過ごした思い出少ないながらもある。
 塞ぎかかっている傷口をこじ開けてしまうようであの地に足を踏み入れるのは怖い。

 ただ、日本い帰りたいと思う自分がいるのも事実。
 大家として家の手入れもしなくてはいけないし、それに入居者を捜さないことには食べていくお金もなくなってしまう。いつまでもこんな大きな病院に入院していたんでは貯金が底をついてしまう。

「僕も一緒に帰る。もう怖い思いはさせない。僕がずっと一緒に」


「柊一、そういうのは俺の台詞だから。やめろよ、人の彼女を口説くのはさ」

 その時、電話を終えた空良くんが返ってきた、
 いつも入ってくるタイミングが完璧すぎる。

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