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変人を好きになりました

第19章 灯台下暗し

 30センチ近く違う身長のせいで古都さんが僕を見上げる形になる。

 子犬のように見上げたその瞳に切れ長の僕の目が映る。


「すまない」

 僕が謝ると古都さんの口元がぴくりと動いた。



 日本人には外国人の茶色の瞳や緑の瞳をかっこいいと憧れる人が多いけれど、僕はそう思わない。
 虹彩の色は茶色、青色、黄色の三色で構成されていて日本人に多い黒の瞳は実は濃褐色だ。でも、古都さんの左色の瞳は本当に綺麗な漆黒。奇跡的な配合で三色が混ざり合ってこの色ができた。

 それが今、彼女の片目はヘーゼル色に変化をとげようとしていた。

 おそらくヘーゼルになった後も変化を続ける。灰色になるか、赤色になるかは分からない。けれど、このまますすめば彼女の元の瞳の色は戻ってこないだろう。

「クロタキさんが私の怪我に関わってたとしても、恨んだりしませんよ。だから、そんな泣きそうな顔しないで下さい」

 古都さんの優しい言葉で自分が情けない顔をしていることに気が付いた。無意識だった。

 外傷が原因の視力障害には時に虹彩異色症が見られる。古都さんの場合もそうだ。虹彩の中のメラニン色素、虹彩のストロマに付着するメラニンと細胞の密度が傷により変化することで色が変わっていく。


「でも、クロタキさん」

 古都さんが続ける。ピンク色の唇が動くたび僕は身体が麻痺していく。

「あの苦いお茶、もう少しまっしにならないですか?」

 悪戯っぽく微笑みながら言う彼女が堪らなく愛しい。
 手を伸ばして彼女を抱きしめたいけれど、そうすれば古都さんは拒絶するだろう。空良の恋人として不貞な真似はしたくないに決まっている。 

 伸ばしかけた腕をひっこめると、古都さんは不思議そうに首を傾げた。純粋無垢な彼女に気を遣わせてしまうなんて……僕が原因なのに。



 早く空良と別れてほしい。空良が古都さんの近くにいると嫌な予感がしてしょうがない。


「古都さん、空良とは……」

「別れようと思います」

 凛とした表情で遠くを見つめてそう言う彼女は決意が固まったように見えた。
 僕は思わず古都さんの手を握りしめた。何度か握ったことのあるこの小さな手は僕の手にすっぽり収まってしまう。

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