テキストサイズ

変人を好きになりました

第19章 灯台下暗し

「よかった」
「え?」

 僕の呟きに古都さんが首をまた傾けた。
 首を20度ほど傾けると愛しさが増すのは父性本能が掻き立てられるからだろうか。コンラッドローレンツの議論からすると幼児的特徴は父性本能を掻き立てると言っている。

 動物にはそういう本能が生まれつき備わっている。そうすることで大人が自然と赤ん坊の世話をする、したいと感じるための本能だ。

 可愛い、愛しいと感じてしまうことはこの本能の副作用のようなものだと1995年にポール・H・モリスは主張した。


「早く、空良にそのことを伝えたほうがいい」

 そんなこと言って、本当は自分がそう望んでいるだけだ。
 古都さんが首を縦に一度振った。

 僕も早く古都さんの網膜再生に効果のある治療法を見つけなくては。今のままでは片目を完全に失明にしてしまう……。

 記憶も早く取り戻してほしい。そうすれば、この気持ちを伝えることができる。誤解だったと伝えたい。そして、高校生の頃からの片思いを終わらせたい。


 古都さんの手がするりと僕の手の中から抜け出した。恥ずかしそうに頬を赤らめながら僕を見上げる古都さんをいつまでも眺めていたいと思った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ