
変人を好きになりました
第20章 思い違いの脱走
「空良くん、おかえりなさい。ご飯は?」
「ただいま」
帰ってきた空良くんの目はどことなく腫れているようだった。
女の子みたいな可愛い顔が少しやつれている。
私のせいなのかもしれない。
「オムライス作ろうか? あ、心配しないで。こんな目でもお料理はできるの」
たぶん昨日から何も食べていないのだろう。早くご飯を食べさせなくてはと思ってキッチンへ向かう私を空良くんの声が私を止めた。
「それより、俺に言いたいことあるんじゃないかな」
その声はいつも通りすごく柔らかくて優しいのに、どこか冷たい。
私は空良くんを振り返った。
ダイニングには私と空良くんしかいない。クロタキさんは空良くんが帰ってくるほんの少し前に仕事があるからと出て行った。
「いいよ。覚悟、できてるからさ」
軽い口調なのに、空良くんの泣きはらしたような目が私に何か訴えかけようとしている。
「空良くん」
「なに? 古都」
のんびりと聞き返す空良くんに私は頭を下げた。
しっかりと磨きこまれた床が視界に広がる。
「ごめんなさい。私が空良くんを愛していた時の記憶がないのに恋人ではいられないから、だから……」
言ってしまうと私の心が軽くなった。自分が吐き出したものが相手を傷つけるのに、自分は楽になる。酷い話だ。
空良くんが喋る気配はない。私は顔を上げた。
空良くんは直立したまま静かに微笑んでいた。可愛らしい顔が完璧な笑みを浮かべると少し、怖くもある。
「分かった。別れよう」
自分の狡さが嫌になる。空良くんから言わせるなんて。
「ごめんなさい」
「古都はなにも悪くないよ。優しいから。古都は」
私は頭を振った。優しくなんかない。
最低なことしか空良くんにはしていないのだと思う。
「古都は自分に厳しいからさ。もっと自由にしていいと思うよ」
ああ。なんて優しいんだろう。そして私はこんな人になんて酷いことをしてしまったのだろう。
「ただいま」
帰ってきた空良くんの目はどことなく腫れているようだった。
女の子みたいな可愛い顔が少しやつれている。
私のせいなのかもしれない。
「オムライス作ろうか? あ、心配しないで。こんな目でもお料理はできるの」
たぶん昨日から何も食べていないのだろう。早くご飯を食べさせなくてはと思ってキッチンへ向かう私を空良くんの声が私を止めた。
「それより、俺に言いたいことあるんじゃないかな」
その声はいつも通りすごく柔らかくて優しいのに、どこか冷たい。
私は空良くんを振り返った。
ダイニングには私と空良くんしかいない。クロタキさんは空良くんが帰ってくるほんの少し前に仕事があるからと出て行った。
「いいよ。覚悟、できてるからさ」
軽い口調なのに、空良くんの泣きはらしたような目が私に何か訴えかけようとしている。
「空良くん」
「なに? 古都」
のんびりと聞き返す空良くんに私は頭を下げた。
しっかりと磨きこまれた床が視界に広がる。
「ごめんなさい。私が空良くんを愛していた時の記憶がないのに恋人ではいられないから、だから……」
言ってしまうと私の心が軽くなった。自分が吐き出したものが相手を傷つけるのに、自分は楽になる。酷い話だ。
空良くんが喋る気配はない。私は顔を上げた。
空良くんは直立したまま静かに微笑んでいた。可愛らしい顔が完璧な笑みを浮かべると少し、怖くもある。
「分かった。別れよう」
自分の狡さが嫌になる。空良くんから言わせるなんて。
「ごめんなさい」
「古都はなにも悪くないよ。優しいから。古都は」
私は頭を振った。優しくなんかない。
最低なことしか空良くんにはしていないのだと思う。
「古都は自分に厳しいからさ。もっと自由にしていいと思うよ」
ああ。なんて優しいんだろう。そして私はこんな人になんて酷いことをしてしまったのだろう。
