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変人を好きになりました

第20章 思い違いの脱走

 私の記憶さえ戻れば……。いや、戻ったとしてもクロタキさんに惹かれてしまっている今この時が存在するのは変えがたい事実だ。


「古都っ!? どうしたの?」

 空良くんがすごく目をまんまるくして私の顔を覗き込んだ。
 床にぽたりと滴が落ちて自分が泣いていることに気が付いた。
 私がもう一人いたのなら、今の自分を平手打ちしてやりたいと思うだろう。

「私、ほんと……最低でっ」

「古都は本当に何も悪くないんだ。被害者なんだよ。俺が……俺のせいで今までいっぱい苦しんだんだ」
 空良くんの手が私の頬に触れる。大きくないその手は不器用そうに私の頬に伝った涙を拭ってくれた。



「それに俺、まだ全然諦めてないから」
 言い加えた空良くんの顔は太陽みたいに笑っていた。

「オムライス。食べたいな。俺も手伝うよ。俺何回か古都の料理手伝ってるんだ。だから、アシスタントは任してよ」

 太陽みたいな笑顔のまま私の頭をぽんぽんと叩くと、腕まくりをした。私は空良くんを見上げてまだ流れ切っていない目尻に溜まった涙を手でごしごしこすった。



「それで、さっきから気になってたんだけど。その不思議なネックレスは何?」

「正六面体です」
「へ?」
 頭の上にはてなを浮かべる空良くんが可笑しくて小さく笑顔になれた。

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