
変人を好きになりました
第20章 思い違いの脱走
宿谷さんは形のいい眉を寄せて首を振った。
「とんでもない。こちらこそ古都さんをこんな目に合わせてしまい何と言っていいのか……本当にあいつは昔から」
「え?」
「あ、いえ。なんでもありません」
あきらかに何か言いかけた。あいつ?
それはその知り合いのことなのだろうか。だとしたら、その人が私に何をしたというのだろう。
「折り入って提案があるのですが、今からお時間少しよろしいでしょうか?」
まるで大切な商談のように宿谷さんは紺色のスーツに皺ができるくらい屈んで私の目線と合わせると本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
この人、本当に社長なのだろうか。
「提案というのは?」
近くにあった落ち着いたカフェに入り、コーヒーがきた所で私は口を開いた。
見た目だけでなく、宿谷さんの動作は全てがスマートで洗練されている。いよいよこの人の魂胆が分からなくなってきて思わず強い口調になってしまう。
「単刀直入に言います。是非、うちの会社へ来ていただきたい」
アイスコーヒーに口をつけることなく、宿谷さんは目鼻立ちのしっかりした顔を私に向けた。
「はい?」
思わず、大きな声で聞き返す。宿谷さんは強い意志の籠った瞳のまま続ける。
「古都さんは英語、ドイツ語ができると聞きました。残念ながら今の我が社にいる語学に堪能な者たちは全て海外支店へ行かせていたり、営業に回しています。お恥ずかしい話ですが、私はドイツ語がさっぱりできません。そこで語学が堪能な秘書を探していたんです」
「は、はあ……」
あまりの勢いのいい説明に押される形で頷く。
「日向古都さん。あなたの話を聞いて、こんな適任はいないと思いました。今は確信しています」
とんでもない。
私は首を横に振った。
「私は大学を卒業していないんですよ。語学ができて優秀な大学を卒業した人たちなら沢山いるはずです。こんな立派な企業でしたら有能な人材がいくらでも来ると思います。それを私を秘書にだなんて」
「とんでもない。こちらこそ古都さんをこんな目に合わせてしまい何と言っていいのか……本当にあいつは昔から」
「え?」
「あ、いえ。なんでもありません」
あきらかに何か言いかけた。あいつ?
それはその知り合いのことなのだろうか。だとしたら、その人が私に何をしたというのだろう。
「折り入って提案があるのですが、今からお時間少しよろしいでしょうか?」
まるで大切な商談のように宿谷さんは紺色のスーツに皺ができるくらい屈んで私の目線と合わせると本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
この人、本当に社長なのだろうか。
「提案というのは?」
近くにあった落ち着いたカフェに入り、コーヒーがきた所で私は口を開いた。
見た目だけでなく、宿谷さんの動作は全てがスマートで洗練されている。いよいよこの人の魂胆が分からなくなってきて思わず強い口調になってしまう。
「単刀直入に言います。是非、うちの会社へ来ていただきたい」
アイスコーヒーに口をつけることなく、宿谷さんは目鼻立ちのしっかりした顔を私に向けた。
「はい?」
思わず、大きな声で聞き返す。宿谷さんは強い意志の籠った瞳のまま続ける。
「古都さんは英語、ドイツ語ができると聞きました。残念ながら今の我が社にいる語学に堪能な者たちは全て海外支店へ行かせていたり、営業に回しています。お恥ずかしい話ですが、私はドイツ語がさっぱりできません。そこで語学が堪能な秘書を探していたんです」
「は、はあ……」
あまりの勢いのいい説明に押される形で頷く。
「日向古都さん。あなたの話を聞いて、こんな適任はいないと思いました。今は確信しています」
とんでもない。
私は首を横に振った。
「私は大学を卒業していないんですよ。語学ができて優秀な大学を卒業した人たちなら沢山いるはずです。こんな立派な企業でしたら有能な人材がいくらでも来ると思います。それを私を秘書にだなんて」
