
変人を好きになりました
第20章 思い違いの脱走
「部屋。ですか?」
「ここからすぐにあるマンションの私の部屋を使ってもらいたい。今、マンションに空き部屋はないから一時的にだけどもちろん日向さんの自室も用意するよ」
「社長のお部屋に?」
それって同棲みたいだ。大家をしてきたけど、それは貸し部屋としての職業であって男性の部屋に一緒に住むというのには抵抗がある。
こんな社長が私に対して変な気を起こすなんてこと何があってもありえないだろうけれど。
「すまない。マンションの住人を立ち退かせるのは心が痛むし、ここ周辺は見た通りビルがひしめきあったオフィス街。住宅物件が極端に少ないんだ。今用意できるのは私の部屋しかないんだ」
マンションの住人を立ち退かせるなんてとんでもない。確かにこんな地域には他に住む場所はなさそうだ。
雇ってもらえるというのにこんなことで我儘は言っていられない。
「私は構いませんが、その……私が社長の部屋を使わせていただくことで良い思いにならない方がいらっしゃるんじゃ」
社長は大きくも小さくもない見本みたいな目をぱちぱちとさせて私を見た。
しばらくして合点がいったように朗らかに笑う。
「私に恋人はいないからそんなことを心配しなくてもいいよ。それより日向さんこそ大丈夫かい?」
そう聞き返されてクロタキさんの顔が浮かんできた。恋人なんかじゃない。
クロタキさんにはそもそも素敵な想い人がいる。何か事情があってその人には会えないと言っていたけれど、すごくすごく愛しく思っていることは話を聞くだけで分かってしまった。それに、私に怪我を負わせたのは自分のせいだと自分自身を責めて私に精一杯尽くそうとしている様が見ていて辛い。私がいるから想い人の所へ行けないのかもしれない。それなら、私が消えればいいと思った。
空良くんと別れた直後だというのに頭にはクロタキさんしか浮かんでこなかった自分が心底憎い。
首元に指を添える。そこにはさらりとした平坦な肌しかない。
変な形をしたネックレスも空良くんからもらった綺麗な指輪も二人の部屋の前に置いてきた。
「問題ありません」
首元から手を離し、社長に言うと社長は目を細めてから頷いた。
「じゃあ、さっそくやってもらいたい仕事がある」
「はい!」
仕事。そんな単語がすごく嬉しくて勢いよく返事をすると社長がまた笑った。
「ここからすぐにあるマンションの私の部屋を使ってもらいたい。今、マンションに空き部屋はないから一時的にだけどもちろん日向さんの自室も用意するよ」
「社長のお部屋に?」
それって同棲みたいだ。大家をしてきたけど、それは貸し部屋としての職業であって男性の部屋に一緒に住むというのには抵抗がある。
こんな社長が私に対して変な気を起こすなんてこと何があってもありえないだろうけれど。
「すまない。マンションの住人を立ち退かせるのは心が痛むし、ここ周辺は見た通りビルがひしめきあったオフィス街。住宅物件が極端に少ないんだ。今用意できるのは私の部屋しかないんだ」
マンションの住人を立ち退かせるなんてとんでもない。確かにこんな地域には他に住む場所はなさそうだ。
雇ってもらえるというのにこんなことで我儘は言っていられない。
「私は構いませんが、その……私が社長の部屋を使わせていただくことで良い思いにならない方がいらっしゃるんじゃ」
社長は大きくも小さくもない見本みたいな目をぱちぱちとさせて私を見た。
しばらくして合点がいったように朗らかに笑う。
「私に恋人はいないからそんなことを心配しなくてもいいよ。それより日向さんこそ大丈夫かい?」
そう聞き返されてクロタキさんの顔が浮かんできた。恋人なんかじゃない。
クロタキさんにはそもそも素敵な想い人がいる。何か事情があってその人には会えないと言っていたけれど、すごくすごく愛しく思っていることは話を聞くだけで分かってしまった。それに、私に怪我を負わせたのは自分のせいだと自分自身を責めて私に精一杯尽くそうとしている様が見ていて辛い。私がいるから想い人の所へ行けないのかもしれない。それなら、私が消えればいいと思った。
空良くんと別れた直後だというのに頭にはクロタキさんしか浮かんでこなかった自分が心底憎い。
首元に指を添える。そこにはさらりとした平坦な肌しかない。
変な形をしたネックレスも空良くんからもらった綺麗な指輪も二人の部屋の前に置いてきた。
「問題ありません」
首元から手を離し、社長に言うと社長は目を細めてから頷いた。
「じゃあ、さっそくやってもらいたい仕事がある」
「はい!」
仕事。そんな単語がすごく嬉しくて勢いよく返事をすると社長がまた笑った。
