
変人を好きになりました
第20章 思い違いの脱走
「それでこっちが俺の部屋」
その言葉に違和感を感じる。
宿谷さんが自分のことを『俺』と言ったんだと気が付いた。
「隣りの部屋じゃまずかった?」
「いえ。全然」
「よかった。こっちはリビングとダイニング。キッチンは使いたければ自由に使って」
広場みたいにすっきりした大きな大きな空間。大理石の床にカーペットが敷いている場所にはソファやテレビが置かれている。
ダイニングとキッチンは理想的な形で繋がっているが、どこにも余計な物が置かれていない。
宿谷さんが言葉を止めて私を見た。
「本当に何か困ったことがあったらなんでも言ってくれてかまわないから」
その瞳が私の隠された方の目を見ている。
こんなに目立つ隠し方をしているのに宿谷さんは何も聞いてこない。気を遣わせているのだろうか。
「ありがとうございます。あっ」
携帯がカバンの底で震えているのに気が付いた。
「どうぞ」と目で伝えてきた宿谷さんに甘えて通話ボタンを押す。
宿谷さんは慣れた様子でキッチンへ向かった。
「もしもし」
『もしもし、古都!? 今どこにいるの? 何あの手紙!』
電話に出るとけたたましい音量と勢いで空良くんの声が飛び込んできた。しばらく家を出る了承と夕食を用意できない謝罪をしたためた手紙をテーブルに置いてきたのだ。
宿谷さんに拾ってもらう前にもう家には帰らないでおこうと考えていた。
「ごめんなさい。でも、私は大丈夫だから心配しないで?」
『心配しないでって無理に決まってるよ。どこにいるの。本当に帰ってこないつもりなの?』
「うん……。実は私働かせてもらうことになったの。それで泊る所も会社の近くに用意してもらって」
そこまで言った時、宿谷さんの腕がすっと伸びてきて私の携帯を抜き取った。
「株式会社ドリームアクトの宿谷蒼と申します。突然ではございますが日向古都さんに我が社で働いていただくことになりまして。ああ、はい。それは私の‥‥‥。はい、そうです。本当にご迷惑をおかけして」
さらりと柔らかい口調で話し始める。完全に仕事の口調だ。でも、急に謝ったりして何か別のことを話しているようにも聞こえる。
宿谷さんの相槌をうつ声と時折何か喋る声に神経を集中させた。
その言葉に違和感を感じる。
宿谷さんが自分のことを『俺』と言ったんだと気が付いた。
「隣りの部屋じゃまずかった?」
「いえ。全然」
「よかった。こっちはリビングとダイニング。キッチンは使いたければ自由に使って」
広場みたいにすっきりした大きな大きな空間。大理石の床にカーペットが敷いている場所にはソファやテレビが置かれている。
ダイニングとキッチンは理想的な形で繋がっているが、どこにも余計な物が置かれていない。
宿谷さんが言葉を止めて私を見た。
「本当に何か困ったことがあったらなんでも言ってくれてかまわないから」
その瞳が私の隠された方の目を見ている。
こんなに目立つ隠し方をしているのに宿谷さんは何も聞いてこない。気を遣わせているのだろうか。
「ありがとうございます。あっ」
携帯がカバンの底で震えているのに気が付いた。
「どうぞ」と目で伝えてきた宿谷さんに甘えて通話ボタンを押す。
宿谷さんは慣れた様子でキッチンへ向かった。
「もしもし」
『もしもし、古都!? 今どこにいるの? 何あの手紙!』
電話に出るとけたたましい音量と勢いで空良くんの声が飛び込んできた。しばらく家を出る了承と夕食を用意できない謝罪をしたためた手紙をテーブルに置いてきたのだ。
宿谷さんに拾ってもらう前にもう家には帰らないでおこうと考えていた。
「ごめんなさい。でも、私は大丈夫だから心配しないで?」
『心配しないでって無理に決まってるよ。どこにいるの。本当に帰ってこないつもりなの?』
「うん……。実は私働かせてもらうことになったの。それで泊る所も会社の近くに用意してもらって」
そこまで言った時、宿谷さんの腕がすっと伸びてきて私の携帯を抜き取った。
「株式会社ドリームアクトの宿谷蒼と申します。突然ではございますが日向古都さんに我が社で働いていただくことになりまして。ああ、はい。それは私の‥‥‥。はい、そうです。本当にご迷惑をおかけして」
さらりと柔らかい口調で話し始める。完全に仕事の口調だ。でも、急に謝ったりして何か別のことを話しているようにも聞こえる。
宿谷さんの相槌をうつ声と時折何か喋る声に神経を集中させた。
